コロナ禍の生活が4年を経て、生活の変化による児童・生徒の健康への影響が危惧されているところです。現時点で得られるデータから注意喚起が必要と思われる事項についていくつか提言させていただきますので、児童・生徒の保護者の皆さまにはお子様ヘの影響を最小限にすべくご留意をお願いいたします。
コロナ禍の児童に与える影響 その1 肥満について
学校保健統計調査/年次統計によると、肥満小児の頻度は昭和52年から年々増加していましたが、小児生活習慣病予防検診の実施などによる肥満への意識の高まりのためか、平成18年から減少傾向となっていました。しかし、平成30年からは再度増加傾向に転じ、さらに令和2年には大きく増加しています(資料1-1)。
資料 1-1
これはコロナ流行期、全国一斉休校とその後も繰り返される学級閉鎖と重なり、コロナ禍による生活の変化が大きく影響していたと思われます。長野県学校保健会養護教諭部会においてまとめていただいた調査結果でも同様の傾向が見られました(資料1ー2)。
資料 1-2
身体を動かす機会が少なくなると肥満傾向となり、肥満が進むと運動嫌いになりさらに肥満を悪化させるという悪循環に陥ります。同時に肥満や運動嫌いは自己肯定感の低下にもつながります。
そこで今改めて児童への注意喚起が必要な時期と思われ、学校全体で取り組んでいただきたいと思います。また、各家庭でできることとして、「肥満予防のための10箇条」を添付しましたのでご活用いただければ幸いです(資料2)。
資料 2
コロナ禍の児童に与える影響 その2 近視について
学校保健統計調査/年次統計によると、近視の頻度が増加の一途をたどっています。そして、ここ数年の増加傾向は顕著となっています。日本眼科医会の報告によると、近視が増加しているだけでなく若年化しています。このような急激な変化は遺伝だけでは説明できず、環境が大きく関与しているといえるそうです。そして、コロナ禍の生活はさらに近視増加に大きな影響を与えると思われます。近視ではメガネなどで視力を矯正する必要があります。でも問題はそれだけではないのです。まず、眼球の中の圧力「眼圧」が高くなって視野が狭まり、最悪、失明に至ることもある緑内障のリスクが3.3倍となります。さらに、水晶体が濁る白内障のリスクは5.5倍に、網膜が剥がれて視野が欠け、適切に治療しないと失明に至る可能性もある網膜剥離が21.5倍になると言われています。
日本眼科医会ホームページの「気をつけよう!子どもの近視」は、とても分かりやすく解説されています。以下、抜粋して記載しましたが、是非ホームページを開いて全文をご覧になってください。
◎近視の原因として、近いところを見る作業以外に、「外遊び」の減少があります。日光に当たる外遊びが少ない子供は近視になりやすいと言われています。学校の昼休みや授業の合間に外に出ることで外にいる時間を増やすことを推奨しています。
◎必ずしも直射日光のもとで過ごす必要があるわけではなく、建物の影や木陰でも近視予防に十分な照度が確保できます。むしろ日差しの強い直射日光は熱中症や紫外線などの悪影響もあるので、帽子やサングラスなどが必要になることがありますが、それらを使用しても近視予防に十分な効果があります。
◎近いところを見る作業を行うときは、少なくとも30cm以上離して作業すること、30分に一度は遠くを見て連続させないことが近視予防に有効です。
日本眼科医会ホームページ「気をつけよう!子どもの近視」
コロナ禍において室内で過ごす時間が増え、GIGA構想でタブレットに向かう時間が一気に増えたことで近視が進む可能性が非常に危惧されます。児童が一日の大半を過ごす学校現場において以上のようなことに取り組んでいただき、さらに近視が進むことのないようご尽力お願いいたします。
コロナ禍の児童に与える影響 その3 心の健康について
コロナ禍で生活が一変し、未だに先が見通せない状況は、子どもたちにとっても大きなストレスになっています。 COVID19による休校、罹患や濃厚接触者となったために長期に登校できないこと、楽しみにしていた行事の中止や縮小、楽しい筈の給食で黙食を余儀なくされていることなど、多くの変化が子どもたちの身体だけでなく精神の健康にも影響を及ぼしています。実際、国内外におけるCOVID19感染拡大が児童思春期の子どもたちのメンタルヘルスに及ぼす影響の調査では、抑うつや不安、摂食障害の確率が上昇していることが報告されています。児童生徒の自殺者数はコロナ禍前から緩やかに増加傾向がみられていましたが、コロナ禍の2020年に急増し、その後高止まりしています。思春期におけるメンタルヘルスが将来に影響することも研究で示されていて、小児科医は、今子どもたちにあらわれている症状だけではなく、成人期までつながる長期的な影響についても危惧しています。
子どもたちの発する小さなSOSを見落とさず、気づいたときにはまずは子どもの話をじっくり聴いてあげて下さい。また、様々な感染対策を決定していく過程で子どもの意見を十分に聞いて欲しい、という声が子どもたちへのアンケート調査からも上がってきています。
これらの内容は、国立成育医療研究センターホームページの「コロナ×こどもアンケート調査報告一覧」に詳しく載っています。特に「教育機関・保育機関向け」のサイトは参考になると思いますのでご覧ください。 大人も色々と難しい判断をせまられる場面が多い日々ですが、子どもたちの意見にもしっかりと耳を傾ける機会を是非増やしていただけたらと思います。
子どもたちの発するSOSを見落とさないよう、日々の生活の中で次のようなことに気を付けていただくようご家庭に伝えてください。
- 朝いつものように起きられますか(十分睡眠をとれていますか)
- 朝食を普段と同じように食べられますか
- 毎日快便ですか(便秘や下痢ではない)
- 「おはよー」や「行ってきます」のあいさつをいつものように言えますか
- 顔色はよいですか
毎日顔を見ている家族だからこそわかるSOSがあるはずです。大人もコロナ禍で生活に余裕がなく大変な日々を過ごしていると思いますが、お子さんが何かしらのSOSを発したら、まずはじっくりとお子さんの話を聞く時間を作ってください。
2024年3月
長野県小児科医会・乳幼児学校保健委員会作成
参考資料・文献
学校保健統計調査/年次統計(e-Stat)
https://www.e-stat.go.jp/statsearch/files?page=1&toukei=00400002&tstat=000001011648
NHK特設サイト 新型コロナウイルス “超近視”時代https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/myopia/
気をつけよう!子どもの近視(日本眼科医会)
https://www.gankaikai.or.jp/health/57/
コロナ×こどもアンケート調査報告一覧(国立成育医療研究センター)https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/report/
令和4年自殺対策白書「学生・生徒等の自殺の分析」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/r4h-2-3.pdf
児童生徒の自殺予防に係る取り組みについて(文部科学省)
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6686/00429555/01_monka_04_260.pdf
子どもの心の診療ネットワーク事業、全国の医療機関調査
(国立成育医療研究センタープレスリリース)
https://www.ncchd.go.jp/press/2022/1117.html
Miranda et al. How is COVID-19 pandemic impacting mental health of children and adolescents? Int J Disaster Risk Reduct. 2020 Dec; 51 101845
Yamasaki et al, Interaction of adolescent aspirations and self-control on wellbeing in old age: Evidence from six-decade longitudinal UK birth cohort. J Positive Psychol 2020 Sep 779-788