はじめに
生まれたばかりの赤ちゃんの検査で病気を見つけ、早期に治療開始することによって病気による悪影響を最小限にしようという考えで行なわれているのが、新生児スクリーニング検査です。治療できる病気が増えている今、検査できる病気も増えて少し複雑になっていますので、長野県の新生児スクリーニング検査の現状をご説明致します。
検査はどのようにして行なっているのですか?
生後4-6日の赤ちゃんのかかとから、わずかな血液を採取して、専用の濾紙(ろし)に染みこませたもので検査します。県内全ての分娩施設で採取された濾紙は、県立こども病院の検査室に送られて検査され、結果はその分娩施設に返却されて1か月健診の際に報告されます。検査は長野県の事業として、こども病院に委託して実施していますので、検査料はかかりません。全国で同様のシステムがあり、国内どこで分娩しても検査を受けられるようになっています。
いつからやっているのですか?
日本では、1977年から国の事業として行なっています。最初は、フェニルアラニンやホモシステインなどのアミノ酸を代謝する酵素の異常により、これらのアミノ酸が体内に蓄積する病気を見つけることからはじまりました。このような代謝疾患は、異常な蓄積が起る前から治療することが重要なので、新生児スクリーニング検査はとても有意義な検査として実施されてきました。
検査対象となる疾患は増えているのですか?
はい、1977年には5つの病気を見つけるための検査として始まりましたが、徐々に対象となる病気は増えてきました。1979年には先天性甲状腺機能低下症、1989年に先天性副腎過形成症が追加されました。これらは、発達や体の状態を適正に保つために重要なホルモンの異常による病気ですので、症状が進行する前に治療を開始することが重要な病気です。また、2014年には検査方法が進歩してタンデムマス法が導入されたのに伴って、対象疾患に尿素回路異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症が加わり、長野県では25疾患を対象にしています。(図1)
最近始まった「オプショナル新生児スクリーニング検査」とはどんな検査ですか?
公費で行なっている上記25の病気に加えて、「オプション」で追加できる検査です。長野県では、2022年10月から脊髄性筋萎縮症と原発性免疫不全症をオプションの検査対象にして、希望された場合に行なえるようになりました。従来の検査用に採血した濾紙をそのまま再利用するため、赤ちゃんには余計な負担はありません。しかし、2023年時点では検査費用の6000円は保護者の負担となっています*。(パンフレット:https://nagano-child.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/08/tandem-ms_optional_2022.pdf )
*安曇野市や箕輪町など一部の市町村では自治体が負担しています。
脊髄性筋萎縮症について教えてください
脊髄にある神経細胞の状態を良好に保つ遺伝子(SMN1)の変異によって起る病気です。神経細胞が脱落して体中の筋肉が弱まり、萎縮する病気です。重症の乳児型では、乳児期から泣き声が弱く、呼吸や哺乳の力が低下して、治療しないと2年以内に呼吸不全で亡くなるとされています。2017年に画期的な治療薬が使用できるようになったため、1日でも早く診断して治療を開始することが重要になりました。約2万出生に1名の頻度ですので、長野県内では1-2年に1名は患者さんが生まれることになります。
原発性免疫不全症について教えてください
感染症から身を守るために重要な免疫の機能に、生まれつき障害があるのが原発性免疫不全症です。予防接種や感染症にかかる前に診断し、治療を開始することが重要です。Tリンパ球が無い重症複合免疫不全症と、Bリンパ球が無いB細胞欠損症があります。重症複合免疫不全症では造血幹細胞移植によって、B細胞欠損症では定期的な免疫グロブリン補充療法により、感染症から守ることができるため、生まれてから早期に診断と治療をすることが重要です。
「オプショナル新生児スクリーニング検査」の結果はどのように確認できますか?
こども病院の検査室で検査して分娩施設に結果が戻るので、問題がなければ他の新生児スクリーニング検査と同じく、1か月健診の時に結果を確認できます。しかし、精密検査が必要な場合には少しでも早く検査・治療を行なった方がいいので、治療施設(脊髄性筋萎縮症はこども病院神経小児科、原発性免疫不全症は信大病院小児科)から分娩施設を通じて速やかに連絡します。(図2)
どれくらいの人が「オプショナル新生児スクリーニング検査」を受けていますか?
検査開始から15か月の時点で、その間に生まれた赤ちゃんの約90%が検査を受けています。他県に比べてとても高い数字ですが、10%(約1500人)の赤ちゃんが検査を受けずに見逃されている可能性があることを示しています。(図3)
「オプショナル新生児スクリーニング検査」が公費負担になると聞きました
2023年11月にこども家庭庁から、脊髄性筋萎縮症と重症複合免疫不全症の2疾患について、公費負担の実証事業を始めると発表がありました。長野県では現在準備を進めており、準備が整えば保護者の6000円の費用負担がなくなります。
これからも新生児スクリーニング検査は変わりますか?
検査と治療が可能な病気はさらに増加していますので、新生児スクリーニングの対象はさらに増えつつあります。最近では、ライソゾーム病(ムコ多糖症I 型、II型、IV A型、VI型、ファブリー病、ポンペ病)と副腎白質ジストロフィーが、次の新生児スクリーニング検査の対象疾患になると言われ、長野県でも準備を進めています。また、先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症も、生後3週間以内の尿検査で診断が可能な疾患で、検査体制の整備が進められています。(図1)
以上、2024年3月時点での長野県における新生児スクリーニング検査の状況について記載しました。これからも、新生児スクリーニング検査は変化し続けます。詳しくは県立こども病院のHP( https://nagano-child.jp/department/laboratory_medicine/tandem-ms_optional )もご参照ください。
2024年3月
県立こども病院 稲葉雄二